GLASS BOTTLE STUDIES

第3回 ガラスびんの多様性を探る:かたち編

第2回ガラスびん学までガラスびんがリサイクル・製造される現場について学びました。
ひとえにガラスびんと言っても古今東西多種多様。なぜその色とかたちなのでしょうか?使い手に何が必要だから、作り手は何を考えたのでしょうか?

第3回からは、私たちの生活にありふれたガラスびんのあり方、隠れている価値ついてより深く理解するために、プロフェッショナルの視点も交えて追究していきましょう。
お話を伺ったのは普段ガラスびんメーカーでびんのデザインに従事し、何よりガラスびんを愛するこちらの3名。

 

 

(写真左)東洋ガラス株式会社 企画開発部 デザイン課 課長 八百幸玲
多摩美術大学でプロダクトデザインを専攻後、1999年入社。ガラスびんのデザインのほか、案件によっては、付随する外箱のパッケージ、カタログ等広くデザインをおこなう。
「最近は少なくなってしまいしたが、取っ手の付いた大容量のウイスキーびんを見つけると、思わず持って重量感を楽しんでしまいますね。取っ手が付いた形状は、設計も生産も大変難しいので、特に作り手のパワーを感じます。」


(中央)日本山村硝子株式会社 ガラスびんカンパニー営業本部マーケティング室デザイナー 後藤幸代

多摩美術大学でクラフトデザイン(ガラス)を専攻後、1992年入社、一度出産、育児で退社後復帰。女性ならではの視点と経験により、日本山村硝子社のデザインを牽引する立場となっている。ガラスびん全般のデザイン、プレゼンテーションの他会社の情報誌やカタログ制作にも携わる。
「好きなガラスびんはテキーラのびんのような荒々しいガラスの表情を持つ肉厚のものや、全面文字彫刻されているようなものです。」


(右)石塚硝子株式会社ガラスびんカンパニー 営業本部営業開発室リーダー 鵜澤大典
多摩美術大学でクラフトデザイン(ガラス)を専攻後、印刷会社を経て2001年入社。酒類びんを中心にデザイン業務と共に設計業務も手がけ、工場を飛び回るなど石塚硝子社ではマルチに活躍。またリーダーという肩書きから管理業務もおこない、日々多忙を極めている。
「お酒のびんは重厚感や手触り、彫刻など多種多様で眺めていても楽しめるので大好きです。」

 

今回みなさんに持ち寄っていただいたのは、商品として発表された容器の他、海外出張・旅行先、日常生活で資料集めとして収集したガラスびんの数々。彫り込みの凹凸に特徴があるもの、色のついたもの、アンティークびんなど、豊富なバリエーションラインアップには私たちが無意識に見過ごしていることが想像以上に多く潜んでいるかもしれない…そんな期待感とともに、プロフェッショナルによるガラスびん談義が始まりました。
まずは導入編として、ガラスびん初級者・上級者問わず新鮮な発見でいっぱいの「かたち」から探っていきましょう。

 

ではまずは八百幸さん、この中で一番かたちがおもしろいと思うガラスびんはどれですか?

 

八百幸:「ディレ・ブル・モスカート」というイタリアのワインのガラスびん。手でガラスびんを握った時の形にへこみができているんです。

 

 

後藤:今はなくなってしまいましたが、90年代後半にも日本で似たようなスポーツ飲料のガラスびん容器がありましたよね。手で握った跡のようなへこみが入っていて、コンビニでも清涼飲料コーナーに普通に並んでいたんですよ。

 

ペットボトルじゃなくてガラスびん容器に入ったスポーツ飲料というのもなかなか実験的ですね。こういったデザインを作るのは難しいことなのでしょうか?

 

後藤:何が難しいって、急激にへこませるような形状は肉が回らなくなるから…

 

ガラスのニク??

 

八百幸:そうそう、業界用語でガラスの厚みのことを「肉」っていうんです。「肉まわり」とか「肉厚」という言葉はよく使われますね。「肉がまわらない」というのは、金型の中でガラスびんの厚みが充分にならないという意味。薄くなる箇所を作らないように、肉周り(厚み)に気をつけて意匠設計しなければいけません。

 

なるほど…このラベルとくぼみの位置合わせにも、ひょっとして秘密がありますか?

 

八百幸:ガラスびんの特定の箇所にラベルを貼り付けたい場合は、本体とラベルの位置合わせができるよう予め「ディンプル」というくぼみを底面につけています。ラベリングマシンはこのディンプルを利用し、所定の位置で固定してラベルを貼っています。通常の側面がフラットな四角形状のガラスびんは、丸びんよりも方向性が出しやすくラベルを貼り合わせる位置を特定しやすいと言えます。

 

 

底面にくぼみができているガラスびんは、位置合わせを行なっているわけですね。一般的に回転体で側面に細工のないガラスびんが多い理由も納得です。

 

後藤:複雑な形状を意匠設計するうえでもう一点気をつけなければいけないのは、金型が開くときにガラスびんが引っかからず抜けるようにすること。金型はガラスびんを膨らませる際にガラス生地を覆っているもので、これがふたつに開いてびんが出てきます。この時ガラスが金型に引っかからないよう考えなければなりません。
葉っぱの形をしたメープルシロップの容器もそうですね。凹凸が多いですが、これも金型がガラスびんに干渉せずに抜けるかしっかり計算されたうえで作られています。

 

ガラスびんデザイナーは完成形だけでなく
工場で機械動作も考慮する”

では、この中で一番製造することが難しそうなガラスびんはどれでしょうか?

 

後藤:ベルギーの「グラウンドコントロールジン」は、だいぶ形がユニークでよく考えて作っているなと感心しますね。

 

 

ここにつなぎ目がある…ということは、別々の形をつなぎ合わせてこの傾きを作っているということですか?

 

鵜澤:この線は全てのガラスびんにあるんですよ。金型の合わせ目です。

 

全部あるんですか!今初めて意識したけど、言われてみれば確かに…気づかなかった。

 

後藤:びんは通常、鉛直に作られ垂直に立ってコンベアを流れていきます。でもこのびんは鉛直に作られたあと斜めに着地し、そのままコンベアを斜めの状態で流れていくんです。その状況を想像したら面白くなってきませんか?底部のガラスの厚みも魅力的です。

 

そういえば異様に底に厚みがありますね。

 

後藤:かなりの厚みです。ガラスの肉まわりを均質に薄く広げつくりあげることと、底の厚みを保つために膨らませないという相反することを、「吹く」という単純な一工程で実現させているので、底を厚くするのは結構大変なことなんですよ。底のガラスが偏って斜めになってしまったり、ガラスのひずみをとるのが難しかったり、工場での温度管理にもより慎重になる必要があったり…さまざまな苦労があると思います。

今の製びん技術というのは非常に発達しています。このびんは底が均一でまっすぐ、まだきれいな方です。昔のガラスびんはいびつで肉が寄った底面が多かったんです。これはボトルディギングでびんを集めていても魅力のひとつなんですけど…それについてはあとで話しますね

 

 

かたちの複雑なガラスびんほど
金型との関係を密に計算しなければ
実現できない”

他のガラスびんもおさらいしていきましょう。「スリーシクスティ・ウォッカ」は前面にダイヤのような彫り込みがあってユニークです。

 

八百幸:日本だと店舗での商品アピールのため「商品名のラベルをもっと大きくしたい」という要望が出ることがよくあり、彫刻や模様を入れるスペースが少なくなる事がよくあります。ガラスびん全体に彫り込みを入れているのは、海外のガラスびんならではの「挑戦」や「遊び」をデザインから感じます。

 

国内で発売された商品で比較対象として挙げたいのが、2017年にガラスびんアワードで優秀賞を受賞した日本酒「NEXT5 THE HARVEST2017」。全面にお米をモチーフにした凹凸の模様をあしらっていたのですが…あれはすごかったですよね。製作にも一苦労だったようです。発売まもなく完売、さらにガラスびんアワードも受賞されましたね。日本ではやはり表示の規制などでデザインの冒険がしづらいのでしょうか?

 

 

八百幸:成分表示法や、売り場で商品を目立たせることを優先させるためにどうしてもラベル面積が大きな割合を占めてしまいます。もちろんクライアントの要望に応えることが第一条件ですが、かたちのデザイン面に関しては挑戦できる機会が限られてしまいます。

 

鵜澤:だからですよね、日本でも海外でも酒類のガラスびんに面白いかたちが多いのは。容器コストがある程度かかっても差し支えない価格帯の商品だから、面白いことに挑戦する実験的なデザインが多く見受けられます。

 

八百幸:酒類では、最近いわゆる彫刻物が増えてきてますね。少し前までは「シンプルイズベスト」と言わんばかりに合理的でツルッとしたびんが多く出ていた時期もありました。時代によってデザインの傾向にも変化があると、日本ガラスびん協会主催のアワードを見ていても感じます。

その中でもいつも際立ってくるのは、商品のコンセプトをガラスびんが体現している時。ガラスだからこそ可能な表現の美しさもあります。素材としての美しさや愛着を語ることができるというのは、他の素材ではあまりないと思います。

 

お酒のガラスびんに実験の好機あり”

 

お酒だけでも遊びのあるガラスびんのかたちを深掘りしていくのは面白いかもしれませんね。
日本でガラスびんのデザインを挑戦することに限りがあるというお話がありましたが、他に日本と海外でガラスびんに対する姿勢の違いは感じますか?

 

後藤:海外では、製造者も消費者も「ガラスは割れるもの」と受け止めているのだろうなと。
日本だと品質管理を徹底しているので、「泡が入ってる」「(当初の設計より)薄い」という指摘は、ガラスびんを製造する側も一層センシティブに品質のコントロールをしようとする傾向にあります。

 

だから機械検査を経たあとにさらに人間の目視による検査があると。

 

後藤:目視検査に従事する方の集中力にはただただ感心します。

 

機械検査のあとに人間の目視が加わることで
より確かな品質が保証される日本”

作り手の遊び心と実験の精神、商品の世界観を伝えること、使い手へのおもてなしの気持ち。
そして「消費」「品質」に対する価値観の違い。
私たちはお金と引き換えに何を得ているのか?ガラスびんのことを学ぶはずが、その先にある「商品を買う」ということが私たちにとって一体どういうことなのかについても考えさせられるヒントがたくさんありました。

「かたち」の多様性について学んだ次、第4回ガラスびん学ではガラスびんの「いろ」について学んでいきます。商品を伝える装飾として、商品を守る手段としての「いろ」の裏側には何があるのでしょうか。