GLASS BOTTLE STUDIES

第6回:思い出でつながる畑とガラスびん FARM CANNING 西村千恵

ガラスびんとともに過ごす日常の一風景を探しに、TOKYO BINZUME CLUBは神奈川県三浦郡葉山町と逗子市を中心に活動する「FARM CANNING(ファームキャニング)」代表の西村千恵さんに会いに行った。
[聞き手・テキスト 竹田潤平(TOKYO BINZUME CLUB/ Farmer’s Market @ UNU)]

 

 

ファームキャニングとは、土に触れること、旬を楽しくびん詰めすること、人と集うことで「おいしい」の根っこにつながるプロジェクトの総称で、西村さんが2017年から本格始動したものだ。

 

現在ファームキャニングが主催するスクールの拠点となっている「森と畑の学校」は、もともと不動産バブル崩壊後放置される危機にあったこの土地を、もとあった里山の風景に戻すために立ち上げられたプロジェクトだ。現在も立ち上げ当初から一貫して無農薬無化学肥料栽培で、都市近郊型の新しい農業のモデルを模索している。
そんな場所を歩きながら、彼女の活動、そこにガラスびんがどう寄り添うのかを探ってみた。

 

 

そもそもこの畑との出会いはなんだったのでしょうか?

西村千恵さん:都内からここ葉山に引っ越してきた当初、「自然に囲まれた環境だから当然あるだろう」と期待していた無農薬や有機栽培の地元の野菜になかなか出会えないことに驚きました。もともとオーガニックカフェの運営の仕事をしていたので、自分の暮らしをもっと自然と共にあるものにしたくて移住したのに、スーパーには他県の野菜が並び、宅配サービスで無農薬野菜を注文するスタイルが違和感で。

そんな時、友人であった青山ファーマーズマーケットの竹田君に絶対行くべきだとここに連れてきてもらったんです。そうしたら、もうこの土地に恋をしてしまって。山に囲まれた広大な自然の中に、少しだけの畑。無農薬無化学肥料で、生態系に配慮した栽培をしていること、畑を案内してもらいながら摘んだルッコラの力強くて美味しいこと、こんな近くに理想郷があったなんて!と度肝を抜かれました。

当時はまだ今みたいに畑が大きくなくて、人手も野菜も多くありませんでした。何かこの場所の力になりつつ、自分の食べたいものもここで育ててみたいと思い、収穫や梱包・発送作業を1年間ボランティアとして参加しました。

 

 

ファームキャニングスクールを立ち上げた経緯、クラスを開催したことによって起きたことについて教えてください。

もっとたくさんの人にこの場所を知ってもらいたいという思いで始めたのがファームキャニングスクールです。スクールは、いわゆる区画が決められた貸し農園を野菜を作るためだけに自分一人でもくもくやる作業ではなくて、「これおいしい!」「みんなでやれば楽しいね!」っていうシンプルな感動とか、人と集まるキッカケづくりとしてのコミュニティを作りたかった。農作物を作ること、育てた作物でびん詰めの加工品を作ることなど、体験メニューやスケジュールはもちろん用意しているけれど、畑での過ごし方はあくまで参加する人たち次第。お膳立てされたことを消費するのではなく、自らが何かを生み出すことをして欲しいと考えていました。そうすると、ただ木陰でぼーっと過ごしたり、本を読んだり、あとは畑を歩きながら仲良しになった人たちとお話をしたり。

これまで6クラス開催されていますが、面白いことに、仕事を辞める人、転職する人、引っ越す人、結婚する人…毎クラスごとに人生の転機が訪れる人が多いんです。自然の中で自由に過ごし、土に触れていると、本来の自分の望んでいることに気づいたり、心地よい過ごし方を求め始めるのかもしれません。

 

 

(足元のパクチーを摘んで)このパクチー、食べてみる?自然栽培だから香味の奥行きがすごいの。こっちの区画はそれで、隣の区画は動物性肥料を入れてるから味が少し違うかもね。

 

 

すごい、パクチーだけで充分なくらい味が豊か。その場で摘んで味見するって体験もなかなかない。こういうことを体験して、また日常に戻って、次の週末もここで過ごすことを繰り返した先に見えるものってあると思う。

 

 

ところで、ただ野菜を収穫して食べるだけではなく、ガラスびんに詰めることを考えたのはなぜですか?

ファームキャニングのびん詰めはジャムやピクルスではなく、料理のインスピレーションとなることを目指して作り始めました。食材とびん詰めの組み合わせで食卓の幅が広がるようなものが作りたかったんですね。

「本当は旬のものを採って食べたい」「もっと日常の暮らしが自然を感じるようであったらいいのに」という願いは、実は多くの人が抱いているのだと思います。けれど仕事や家族、経済的理由などさまざまな事情からそれを叶えることは難しいと自分自身に言い訳をしていたりする。かつて都内で暮らしていた自分がまさにそうでしたから。

もちろん、すべての人が自然のある場所に移住すれば良いなんて思っていません。そういう気持ちがわかるからこそ、どうしたら暮らしを変えることなく“本当は手に入れたいこと”を日常に取り入れられるのだろうかと考えていた時、びん詰めという昔から受け継がれている保存方法に気づいたんです。

ガラスびんを使えば冷蔵庫がなくても野菜を長期保存できる。それだけでも素晴らしいのに、日常に戻って忙しい時にこそ自分たちで作ったびん詰めの蓋を開けると、畑で過ごした時の空気感や、思い出も必ず湧き上がる。ガラスびんには野菜だけではなく、記憶や想いも詰めることができるとひらめいたんです。

 

 

畑を離れたあとでも、日常と畑がつながって、収穫した野菜を別のかたちで共有できるんですね。

また、農園で働くと無農薬や有機栽培で直面する問題や課題も見えてきました。例えばサイズが不揃いで少し不恰好なだけで、市場に出回らない「規格外野菜」となる。農薬を使わずに手で虫をとるなど、手間をかけながら土壌や社会のためになることをしているのに、人間が作ったルールによって苦しむ人がいるということに理不尽さを感じました。自分ができることを考えると、規格外のレッテルを貼られた野菜を農家さんから買い取り加工して、新たな価値をつけて世の中に出すということを始めようと思いました。そうすると必ずしも無駄になるものではなくて循環できる道ができる。自分なりに持続可能な農業を支持する姿勢を示そうと思ったんです。

 

そうそう、ガラスびんも製造過程の最後に、品質検査をした流通に乗らないガラスびんを除くんですよ。でもそこで終わりじゃなくて、また砕いてガラスの原料として再利用している工場は珍しくないんです。 

プラスチックなど人工的に作ったものが今自然を破壊すると問題になっていますが、自然から生まれたものは必ず自然に戻ることができる。だから私はガラスも好きなんです。

 

“畑を離れても野菜を通して
日常と畑がつながっていく

びん詰めは誰にでも手軽にできることだから、時間を経てもそういう話を他の人とシェアすることができる。そういう時間と空間を越えた食の経験が、私たちにとって大事なことを考えるきっかけをくれると思います。

 

 

最後に、ファームキャニングの今後の展望を聞かせてください。

場所に依存することなく、ムーブメントとして様々なところに持続可能な食への意識が広がっていくこと。美味しいね!楽しいね!と同じような想いを持つ人と繋がって、世の中が少しでも平和な方向へ変化していったら良いなと思っています。

 

流通の過程には「規格」「品質」という概念が存在し、そこにはまらないものは弾かれる。かと言ってそこで道が閉ざされるわけではない。とあるものが作られることにかかる時間、労力、エネルギーを考えると、無下に「廃棄」という選択はしないんじゃないだろうか。

Re-think food from farm to glass bottle

今目の前にある食べものを構成しているのはなんなのか。限りある資源をどう活かすのか。

「規格 / 規格外」という考え方を外した先で地球規模の大きな視点を持つと、野菜もガラスびんも、「ごみ」ではなく「循環できる資源」として捉え直すことができる。消費者に徹するのではなく生まれた背景にも想像を寄せた途端、視野が広がり、大きな循環構造の中で身のまわりのものを丁寧に扱おうと思えるだろう。

持続可能な未来を作って行くうえで目の前にごく当たり前に存在するものをどのように活かすか。常にこの視点を持って物事に取り組んでいくことが大切なのではないかと思う。今後は私たち受け取り手の想像力がより一層求められていくだろう。