GLASS BOTTLE STUDIES

第7回:温故知新・ボトルディギング

第3〜5回ガラスびん学では色とかたちについて学びました。今回から、私たちにガラスびんのことを学ぶ機会をくれた3人へフォーカスして、さらにガラスびんが作られる背景と魅力について掘り下げていきましょう。

 

 

今回お話を伺った日本山村硝子の後藤さんは、三人の中でも一番ガラスびんデザイナー歴が長く、「ボトルディギング」というユニークな趣味を持っています。集めているガラスびんもボトルディギングを通して見つけたアンティークびんや、工場で作られたものの「規格外」となったガラスびんたちです。

 

写真:後藤さんのガラスびんコレクション

 

話の始まりは、後藤さんが用意した『モヤモヤボトル(後藤さん命名)』でした。

 

後藤:これは製びん工場で型替え直後、ゴブと呼ばれる高温のガラス塊を金型に送り込んで最初に吹製したガラスびんです。吹き始めって、まだ金型が適正な温度まであったまってなくて、ガラスとの温度差でガラスびんの表面にモヤモヤと波を打ったような表情ができるんです。擬人化すると「まだ寒い!」って震えるイメージ。

 

一同:へえええ!

 

後藤:本来は「表面が荒れた」ガラスびんなので破棄され市場にも出回らないものなんだけど、私はそのゆらぎのある表情がアンティークっぽくて大好きで集めてます。
自分がデザインしたガラスびんを最初に工場で製造するときは必ず立ち会うのですが、朝一で現場に行った時に工場スタッフに「吹き始めに出た『モヤモヤボトル』を取っておいて」とお願いしておきます。そうすると本来なら破棄される『モヤモヤボトル』を取っておいてもらえるんです。工場のスタッフも、割れやすい『モヤモヤボトル』を割れないように工夫してくださったり。

“行動力とアンテナありき!
ガラスびん蒐集
「ボトルディギング」の実態

後藤さんのボトルディギングの話を。これってどういうアクティビティなんですか?

 

後藤:海辺や川沿いなど、とにかくガラスびんを掘り起こして集めることをボトルディギングと言います。ディギングの成果をボトルディガー同士がウェブ上で情報交換することもあります。それぞれ貴重なお宝を掘り出してるので、具体的にどこで見つけたとは言わないけど毎日のようにSNSに写真を投稿しています。

 

これまでに後藤さんがボトルディギングで行った場所は?

 

後藤:基本的に実家や地元です。埋まってるところには埋まってて、貝塚みたいな感じですよ。びん塚とでも呼びましょうか(笑)

 

土を見ててもなかなかガラスびん見つけられる人いないですよね。相当アンテナ張りながら外を歩いてるんですね。何より後藤さんの行動力もすごい!

 

後藤:気がつくと足元や土を見ながら歩いてることがよくあります。再開発している工事現場や神社、あとはちょっとした草むらにもありますよ。すごく古いコーラのガラスびんがあったりします。
私は今は自由な時間が限られていてあまり遠方に行けないんだけど、田舎や海沿い、川沿いなどはハケ探しに絶好です。田舎の空き地に扁平びんや古い一升びんが埋まっていることもありました。

 

ハケってなんでできるんですか?昔ゴミ捨て場だったとか?

 

後藤:昔燃えないごみをまとめて廃棄していた場所に、陶器やガラスが土に還らず残っていて、それが現在「ハケ」としてボトルディガーたちの活動場所になっています。廃村となった場所にも探して行くみたいですよ。いずれ行きたいですね、廃村巡り(笑)
夏は蛇や危ない動物がいるから、行くとしたら冬ですね。いろんな情報収集をしながらひとりですっかり盛り上がってるけどなかなか時間を見つけられなくて…。

 

意外にサバイバル能力が試されそうな趣味ですね。でも後藤さんがはまってしまう気持ちも分かる。見つけるだけでなくて体験まるごと楽しめるからワクワクするんでしょうね。
ボトルディギングを始めたのは、誰かに誘われたことがきっかけですか?

 

後藤:東京で私設ガラスびん博物館「ボトルシアター」を開いてる庄司先生の影響です。まだ自宅のコレクションを「ボトルシアター」として一般公開する前に入社当時の上司とおじゃましたことがあって。当時はコレクションしているだけだと思ったのですが、あとから自ら掘ってらっしゃることを知って、そこに興味を持ちましたね。

 

日本ガラスびん協会では、渋谷駅並木橋付近にある、築80年を越える古民家で庄司先生のコレクションの一部をお借りして「ガラスびんテージハウス」を期間限定で開催し話題となりました(開催期間:2019年6月19日~7月3日)

 

後藤:調べてみると、アメリカでは切手、コイン、ボトルが三大蒐集趣味と呼ばれていたこともあるんですって。そんなに大きな市場があったのかとびっくりしました。アメリカだと、1920年代の禁酒法のおかげでトイレで隠れてお酒が飲まれた時代があったので、トイレの跡地を掘っていくとザクザク出てくるって聞きました。アメリカ行ってガラスびん掘りたいですねー!

“溶けない・土に還らない
だから時代を超え歴史とともに
再発見されるガラスびん”

次に後藤さんが実際にボトルディギングして見つけたガラスびんを見て行きましょう。

 

後藤:これは私の近所の小学校で掘ったもので、小学校ができた1960年代頃のサラダオイルのびんです。

 

!!そんなものも出てくるんですね。しかもこのサラダオイル、今もずっと売れ続けてるロングセラー商品ですよね。当時も同じ商品が誰かの台所にあったと思うとロマンですね。
一方のこのガラスびんは口の部分が非常に厚いですが…

後藤:これは掘り出したものでなく弊社のサンプルびんなのですが、側面に「RETURNABLE(リターナブル)」と書かれています。再利用するので使ったら返してねというメッセージです。アンティークガラスびんにはよく見られるもので、これを見ると法律でリサイクルのシステムが確立されるずっと前から、ガラスびんは使ったら返すものだったということがわかります。

 

アンティークの風合いを機械で再現するとしたらどうなるのでしょうか?

 

後藤:雰囲気を出すために、わざとゆるい形をした金型を作ることはできるけど、味わいがなくてカチッとした感じになると思う。肉厚で、ガラスの質や細部まで管理をしていなかったころのびんは、現代の精密なガラスびんとは持っている雰囲気のやわらかさが違うんです。泡の多いびんやいびつなびんを見つけたときは嬉しくなります。

人の手仕事の温度を
感じることができるのは
アンティークびんならでは”

最後に、後藤さんがボトルディギングを通して感じること、見えてくることってなんでしょうか?

 

後藤:昔と今で流れる時間のスピードが圧倒的に違うということ。このガラスびんが作られた時代は工場に流れている時間もすごく遅かったはず。一つ一つのガラスびんが流れて行くスピード、機械が動くスピード、ガラスびん1本が出来上がるまでにかかる時間…全部とてもゆるやかだったんだろうなと思います。今はスピードありきでとにかく時間勝負ですから。それは工場も、働く人も一緒です。

 

作られるスピードが緩やかだったのが、こんなふうに形がちょっと傾いてるところに出ていたりすると。

 

後藤:そうそう。ボトルディギングをしていると、そういうゆったりと一瞬一瞬が丁寧で充実した時代が見えてくるんです。それがいちばんの喜びかな。「時代を超えてこんにちは!」と言われている感覚です。
私は「コレクションをしている」つもりはなくて、自分のこともコレクターだとは思ってないんです。行き着いた先にハッと偶然の出会いがあればいいなあ、くらいの気持ちでいっぱいガラスびんと出会っています。

 

これが作られた時代の、時間の流れ方に考えが及ぶ後藤さんの想像力の豊かさが素晴らしい。

 

後藤:妄想家だから(笑)美術館で古い絵を見てそこに思いを馳せる感覚にも近いかな。
この記事を読んでくださる皆さんにも「ガラスびんを知ろう」っていう気持ちになってもらえたら嬉しいです。アンティークでも、工場で作られた現代のガラスびんでもなんでもいいです。「なにか考えて作られているのかな」「これが作られた時代や場所はどんなだったんだろう」と、ガラスびんの背景に思いを馳せていただけたらと思います。