PEOPLE | PATH Yuichi Goto

PATH 後藤裕一:食材が本来持つ美しさや美味しさを、より引き出す仕事

代々木八幡のレストラン「PATH」のオーナーパティシエ、後藤裕一さん。フルーツや野菜が本来持つ造形や色、味わいを尊重しながら、まるで芸術作品とも呼べるようなデザートを日々生み出しています。私たちも日々お店に通うなかで、「農家さんの果物をより美味しくしてくれるのはこの人!」と今回のTOKYO BINZUME CLUBの商品開発をオファーしたところ、お忙しいにも関わらず快く受け入れてくださいました。フランスの三ツ星レストランでシェフパティシエまで務められたあと、東京に戻り、PATHの立ち上げをはじめ、活躍の場を拡げていっている後藤さん。日本の農家さんと交流を重ねながら、いまどんなことを考えているのか。改めて伺ってみました。

 

TOKYO BINZUME CLUB:後藤さんはイベントで特別メニューを出してくださったりと、Farmer’s Market@UNUではよくお世話になっていますね。最初にご一緒したのはいつでしたっけ?

後藤さん:2016年春ごろの青山パン祭りですね。ちょうどPATHをオープンした頃で、焼き菓子を少し出させていただきました。その後、二度目に参加した青山パン祭りで「10種のぶどうのフルート」というぶどうのデニッシュを作らせていただいたのですが、その時にFarmer’s Market @ UNUの運営メンバーとぶどう畑を訪れ、それから皆さんとの距離が一気に縮まったと感じています。お店へも足を運んでくれますし、日頃からよくコミュニケーションを取っていますね。

—後藤さんは「レストラン・パティシエ」という肩書きを名乗られていますが、「パティシエ」のお仕事とはどう違うのでしょうか?

後藤さん:レストランの主役は料理やワインです。僕は、パティシエとして自分のオリジナリティを出しながらも、いかにそれらに合うデザートを作れるか、というところに面白みを感じてやっています。Farmer’s Market @ UNUの皆さんとのお仕事や、コンサルティングなど他の案件でも同様で、それぞれのオリジナリティにいかに寄り添えるか、ということを考えながらやっています。ご一緒する時に自分自身もその事業や活動に共感できたり、楽しさを感じながらやれるか、といったところも大切にしていますね。

—日頃からFarmer’s Market @ UNUでフルーツや野菜を購入いただいてお店でも使われてますよね。いつもありがとうございます!お店の料理やデザートは、フレッシュな素材に触れてこそ生み出されているのでしょうか?

後藤さん:直接フルーツや野菜を選ベるというのはとても大きいですね。僕がこの仕事を始めて十数年前の日本では、農家さんから直接何かを送ってもらうということはすごく少なかった。食材は業者さんが配送してくるもので、築地なんかの目利きの人が選んだものを使ったり。ところが、フランスで働き始めたら、マルシェを通じて農家さんから直接食材を買って料理に使っていた。それがだんだん僕自身の仕事の仕方になっていって。旬の時に、旬のものを一番美味しく使う、という感覚は、この時に身につきましたね。

—そこではびんを使った食材の保存もされていましたか?

後藤さん:はい。食材の旬にとても敏感な環境にいましたから、食材を美味しい状態で長く食べられるよう、加工してびん詰めすることが日常茶飯事でした。そういう意味で、びん詰めは僕にとってとても身近で、大切な技術です。例えばトマトであれば、トマトが一番美味しい1、2週間の間に収穫して、それを店の料理人総出で加工してびんに詰めて、一年通して使う。プルーンやプラムが美味しい時期に一気に収穫して、種だけ取って半分に切ってシロップ漬けに。コルニッションという小さいキュウリをたくさん採って、塩漬け、酢漬けにして一年中使う。びんはものを美味しく食べるための重要なツールですね。

—今回は「ルバーブのジャム」と「和梨とセロリのジャム」の2種類を作っていただきました。製品化するにあたって難しかったことってありますか?

後藤さん:青山ファーマーズマーケットに出ているフルーツにはそれぞれの農家さんの特徴があったり、ある意味均一化されていない美味しさがあります。試作で作った時と甘みや酸味、水分量が変わってくるということで、生の具材を扱う難しさがありました。農産物を製品化していくとなると、レシピを作りさえすればそこにはめられる、というものでもないと思うので、料理的な感覚を使って作っていきました。

 

—そこは、後藤さん自身の経験から予測してレシピに落とし込んでいったと。

後藤さん:そうですね。そうした難しい判断をしなくても出来るようなレシピを作りました。

 

—果物を扱うってすごく難しいお仕事だと思うのですが。

後藤さん:そうなんです。そのまま食べても美味しい、というのが僕にとっても難しいところで。フレッシュで食べずに、加工する意味を見出さないといけません。

 

—加工する意味、それはどういうところになってくるのでしょうか?

後藤さん:ひとつは、フルーツや野菜が本来持つ美味しさをより引き出したり、他のものと組み合わせたりして味を引き立てられるというとこですね。例えばメロンのデザートであれば、メロンをそのまま食べてももちろん美味しいけれど、生で食べる時には感じられない冷たさや、さっぱりした感じを出したいと思って作りました。この時はメロンの皮に実が乗っているような形でシャーベットを盛り付けています。こうして、元のフルーツの形もなるべくリスペクトしたいと思いながら作っています。植物がもともと持つ美しさを尊重したり、より映えるように作る、というのも加工する面白みですね。ルバーブのデザートは、ヨーグルトとココナッツのムースを薄く塗ったところにルバーブのコンポートを乗せて、ルバーブとパプリカのソースをひいて。ルバーブはピンクのところもあれば、赤いところ、緑の部分もあって、そのままでも綺麗ですよね。そこを見せていきたくてこのように作りました。(写真:後藤さんのInstagramより)

 

—デザートに野菜を使うこともありますよね。どのような感覚で合わせているのでしょうか?

後藤さん:例えば今回の和梨とセロリの組み合わせは、フルーツにこういう青みって合うよね、ということで生まれました。ただデザートに野菜を使うことが面白いから使っている訳ではなくて、基本的にはフルーツをメインに扱いますが、フルーツにないものが欲しいので合わせているんです。野菜の筋っぽい感じとか、みずみずしい感じ。セロリだったら、しゃくしゃくとするあの食感や、青み。そういうのってフルーツにないじゃないですか。植物という大きなくくりの中で選んだ結果、セロリなどの野菜に行き着いたんです。それぞれにしかない特徴を生かしたい、ということで使っています。

—なるほど。ある意味新しい味わいを生み出すことがお仕事とも言えますよね。味わいというのは主観によるところが大きいと思うのですが、レシピを考える際などに大切にされていることは何でしょうか?

後藤さん:自分の声に素直にやる。且つ、疑問も持ち続ける、ということですね。最初にインスピレーションが湧いて思いついたものを大切にするようにしています。一方で、客観的にも見直してみる。あまり人の評価は気にならない方なので、自分自身が美味しく感じ、納得がいくものを作って行くようにしていますね。もちろんお客さまが食べて美味しいと言ってくださるのも嬉しいのですが、自分としてはもっと前の段階に確信を持ってお出ししています。

 

—今後のお仕事の展望について教えてください。

後藤さん:パティシエの新しいあり方を提案していきたい。若い人を育てていきたいですね。Farmer’s Market@UNUで料理人のつながりが広がっていっているように、パティシエのコミュニティも出来ていったら良いなと思っています。

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